夫のばら疑惑

先週、あまり調子が良くないと夫が毎日のように言っていた。

水曜日「なんか、手のひらに赤いのができてる」と言う。

赤くて平たい斑点が左の手のひらに3つ、右手の指に2つ。へーかゆいの?痛いの?と聞くと別に何ともない、とのことだったので放っておいた。

 

木曜日、それがちょっと増えて何だろうね、と適当に答える。本人は病気だったら嫌だなーと何やら検索している。

金曜日、風呂上りの夫の腕や胸に広がっている。ぎょっとして全身見せてもらうと足にも少しある。本人もいよいよ青ざめて、気味悪がっている。

明日病院に行きなよと伝えて、私も「赤いぶつぶつ 痒くない」だとか調べる。

それっぽい写真をクリックすると、梅毒の初期症状だという。

えー。そうですか?うちの夫がですか?

写真を夫に見せる。夫も「実は俺も似てると思っていたけど、心当たりが本当に無い。」とのこと。小さなばらの花に似ているからばら疹と言うんだって。ばらの花は好きですが、このような不気味なばら園は初めて見ました。

 

土曜日、混雑していたであろう皮膚科から少し疲れた夫が帰ってきた。

「診察はすぐ終わった、やっぱり梅毒を疑われて、血液とられた。」

マジか~こっそり風俗とか行ってないの?と聞いたけど、やはり行っていないようだ。そして私も、夫にそういった類のきっかけはないだろうと思えた。

仕事で多忙なうえ、友達は男ばかりで怪しい動きも無い、お金だって(独身時代貯金ができないタイプだったため)私の管理下にあり数万の出金があれば目につくはず。

そもそも今年、彼の下半身はずっと調子が悪いのだ。

最近は、真夏の間じゅう合皮の椅子でフル在宅ワークとなりきんたまがかぶれていた。購入時、この椅子ふかふかだし社長室みたいで良い!と仰っていたが、今となってはそのどっしり具合が恨めしいようだ。捨てるのも面倒だし結局使っているようだけど。

業務改善のためのアドバイスを他者にする機会は今まで時々あったけれど、きんたまにサーキュレーターで風を当てて仕事してはどうか、という提案は後にも先にもあの時だけだと思う。

 

話が逸れましたが、とにかく夫を疑惑の目で見ても、性感染症を拾ってくるようには見えず。しかし現状、梅毒にしか見えず。

「本当に失礼なことを聞くけど、心当たりないよね?」と聞かれる。無いよ。

ふたりで唸っていると「実は数か月前、ゲイの友達と酔っぱらってキスしたことがある…」と漏らす。

何やと~!?えっ深めのやつ?本当は盛り上がってもっと色々しましたか!?

問いただしたが、ごく軽いものだしそれ以上は絶対に無いと言い張る。梅毒の潜伏期間は1~13週ほどだし、その可能性もある…?と急に不安になる。

月曜に血液検査の結果が出る。それまではお互い過剰に心配しないように誓う。

普段ならそれぞれのベッドへ向かう前におやすみのキスをするが、辞めておいた。まさかね、いや、これが正常性バイアスってやつか?疑惑の芽を、見て見ぬふりするように眠った。

 

日曜日、梅毒とは何か…と結局二人してしきりに検索してしまう。「風俗嬢のための梅毒客の見抜き方!」を読むと、夫はまさに梅毒客じゃないか。シャワーを浴びるとばら疹が赤くなり目立つ。

夜、夫が薬の錠剤を飲んでいる。昼間ネットで見たぞ、もしかして、と検索するとその薬の副作用に「発疹」とある!そういえばその薬、水曜から飲んでない?薬疹ってやつなんじゃないの?と騒ぎ立てる私。

夫は、医者にその薬を飲んでいることを申告し忘れていた。ちゃんと言え!

 

月曜日、働きながら脳の片隅であのばら園がちらつく。休憩時に夫からのLINEを読む。

「梅毒じゃなかった!典型的な薬疹みたいで、薬を飲んだことをちゃんと言えって怒られた!」

うおーよかった。先生、怒ってくれてありがとうございます。

 

「あんたは、たいていの事を他人事だと思っている。のびのび生きていて大変よろしい。」と祖母にお墨付きをもらっている私ですが、さすがに今回は肝が冷えた。

こうして夫への疑惑は晴れた。

ばら疹は薬の服用が終わって1か月もすればきれいに消えるらしい。

いやしかし、女っ気のない夫に完全に油断していたが今回「俺は昔から、男にモテる」とか言ってたな。今後男でも一切の身体的侵入を許すなよ!と釘を刺しておいた。

騒動が終わって気が抜けたのか私は37.2度の微熱を出した。夫は38度の熱を出した。いつも夫のほうが調子悪そうだ。お大事にね。